科学技術の進歩による恩恵は、人間だけでなく動物たちにも惜しみなく与えられるようになってきている。特に3Dプリンタの登場は、治療の選択肢を大きく広げることとなった。そこで今日は、3Dプリンタによって日常生活を取り戻すことのできた動物たちをご紹介していこう。
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1. ビューティー~密猟者に撃たれたハクトウワシ
ハクトウワシのビューティーは、2005年にアラスカで密猟者に顔面を撃たれた。保護され命はとりとめたものの、クチバシを失ったため野生の世界で生き延びることは難しく、当初は安楽死させるしかないと思われていた。
だがその頃ちょうど普及し始めた3Dプリンタを使って、義嘴(人工のクチバシ)の作製が試みられることになった。完成した義嘴をビューティーに装着して調整を重ねたところ、自分のクチバシと同じように水を飲んだり餌を食べたりができるようになったという。
2. ターボルー~生まれつき前足のなかったチワワ
生まれつき前足が2本ともなかったチワワのターボルー。獣医師は安楽死を勧めたが、飼い主さんは断固拒否。前足の代わりになるようにと、オモチャのパーツで義足を作ってやろうと試みたが、うまくいかなかったんだそうだ。
ある時、ターボルーのことをニュースで見たというメーカーの社長が、3Dプリンタを使って前足の代わりとなるカートを作ってくれた。ターボルーの成長に合わせて10台のカートが製作され、今では自由自在に動き回れるようになった。
3. Akut-3~ボートのスクリューで顎を失ったウミガメ
Akut-3と名付けられたこのウミガメは、ボートのスクリューに巻き込まれて顎の60%を失い、トルコの保護団体に救助された。大学の研究施設で治療や給餌などを受けていたが、顎のない状態では野生に返しても生き延びることはできない。
そこでトルコ国内にある医療用3Dプリンティングの会社と協力し、3Dプリンタで人工顎を再構築する治療を試みた。医療用チタンで作られたこの人工顎は、固い甲殻類なども十分に噛み砕くことができる強靭さを持つ。
このまま拒否反応が起こらず、軟部組織とうまく結合するようなら、Akut-3は将来、海に帰ることができるだろう。
4. バターカップ~生まれつき足に障害があったアヒル
バターカップは生まれつき片足に障害があったため、うまく歩くことができなかった。バターカップを保護していた施設では、当初足を切断して義足をつけることを考えていた。
しかし3Dプリンティングを扱う企業が、別の方法を提案してきた。バターカップの姉妹の足をスキャンしたデータをもとに、3Dプリンタで作製した義足を装着することで、バターカップは歩くことができるようになったんだ。
Buttercup the Duck's new foot is printed on a 3D printer and he walks & runs! (short version)
いくつかの調整を重ねた後、泳ぐことのできる義足も作られた。クリスマスバージョンの義足もプレゼントされたよ!
5. ホーリー~蹄葉炎に苦しむウマ
オーストラリアで暮らすウマのホーリーは、蹄葉炎という厄介な病魔と闘っていた。これは蹄に発症する炎症で、このまま悪化すれば歩くことすらできなくなる恐れがあった。そんな時、ホーリーの治療にあたっていた装蹄師や獣医師たちは、3Dプリンタで作ったチタン製の蹄鉄を使っている競走馬のことを耳にした。
これまで3Dプリンタの技術が、足の不自由な馬の治療に使われた実績はなかったが、ホーリーがその先駆となることになった。
オーストラリアの国立機関CSIROとのコラボレーションが実現し、ホーリーの蹄にフィットするチタン製の蹄鉄が作られた。この蹄鉄を装着することで、体重が均等にそれぞれの蹄にかかるようになり、症状の改善が期待できるようになったそうだ。
Holly's Christmas wish comes true
6. グレーシア~クチバシを折られてしまったオオハシ
コスタリカの心無い若者たちによって、上のクチバシを奪われてしまったオオハシのグレーシア。事件の詳細が広まるにつれ、グレーシアには世間の憤りと同情が集まり、地元企業やクラウドファンディングを通じて、義嘴を作るための資金が集まった。
オオハシのクチバシの構造や機能についてはまだわかっていないことも多く、装着する際に使う接着剤の問題も含めて、現在試行錯誤が繰り返されている。成功すればグレーシアは、ラテンアメリカで最初の3Dプリンタによって救われるオオハシになるかもしれない。
7. フェリックス~3本足のヒツジ
カターディン種のヒツジ、フェリックスは、後ろ足を1本失ってニューヨークの保護施設にやって来た。最初は通常の義足をつけていたのだが、年月とともに磨り減ってきてしまっていた。
そこで獣医師や義肢装具士が協力し、3Dプリンタで作製した義足を装着。3本足だったフェリックスは、再び4本の足で走り回る日常を取り戻すことができたんだ。
8. ヤドカリたちに殻を提供する
ヤドカリにとって、住宅難は深刻な問題だ。貝殻の家がなければ、たやすく捕食者の餌食になってしまう。身体にフィットする貝殻を見つけることは、彼らにとって死活問題なのだ。
そこで3Dプリンタで、ヤドカリたちにピッタリの貝殻を作ろうというプロジェクトが推進されている。試作品はプラスチックで作られたが、今後は環境に優しい素材での「ヤドカリのおうち」製作が試みられる予定である。
この計画は、身体の機能を取り戻すための義肢とはまた違った目的を持っているが、3Dプリンタによる生き物たちへのサポートという面で、新たな可能性を見出すことになるかもしれない。
9. シラノ~足を骨がんに侵されていた猫
9歳の猫シラノは、左の後ろ足を骨がんに侵されていた。飼い主さんは「この猫を救うためなら何でもする」という意志のもと、シラノに猫としては世界初の放射線治療を受けさせ、がんを緩解させることに成功した。
しかし、足が受けたダメージを元通りにすることはできず、獣医師は足の切断を勧めていた。唯一の選択肢は膝関節形成手術だが、これまで猫にこの手術が行われた例はなかった。猫の膝用インプラントは、人間の指の関節ほどに小さく、そして現存している骨と完璧に結合できなければならない。
そこで活用されたのが、3Dプリンタの技術だった。世界中の技術者や獣外科医などの専門家が、シラノの手術に協力した。6時間に及ぶ手術は無事に成功し、シラノはがんに打ち勝って、再び4本の足で立てるようになったんだ。
10. ダービー~前足の障害を克服したハスキー
3Dプリンタの恩恵にあずかった動物としては、このダービーについて語らないわけにはいかないだろう。前足に障害を持って生まれてきたダービーは、歩くことはおろか座ることすら困難だった。
そこで3Dプリンタを使って義足が作られることになった。前足の関節を3Dスキャンして精密な型を採り、設計や素材の選定など何度も試行錯誤を重ねた末、ダービーは走ることができるようになったんだ。
Derby the dog: Running on 3D Printed Prosthetics
ダービーについては以前カラパイアでも特集したことがあったので、もっと詳しく知りたい人はぜひそちらの記事を見てほしい。
3Dプリンタ技術の進歩は、多くの動物たち、そして飼い主たちに、大きな希望をもたらした。これまで安楽死を選ぶことを余儀なくされてきた障害や疾病をもつ動物たちが、身体の機能を取り戻し、幸せな生涯を送れる可能性が広がりつつあるのだ。
これからも改良を重ねることで、安価で手軽に利用できる治療方法として確立されていくだろう。3Dプリンタと動物医療の今後を、期待を持って見守っていきたい。
via:10 ANIMALS WHO GOT A 2ND CHANCE IN LIFE WITH 3D PRINTING translated ruichan / edited by parumo
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